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 イタリア、ボローニャ駅。列車乗り換えのためのわずかな待ち時間に、必ず見ておきたい場所があった。写真左側、駅舎の壁面に、明らかに歪な形をした、屋根まで達する窓が見える。


 1980年8月2日午前10時25分、ボローニャ中央駅(Stazione Bologna Centrale)で大爆発が発生した。2等待合室に仕掛けられた爆弾が炸裂し、同待合室ととなりの1等待合室、食堂などが原型を留めぬほど破壊された。飛散した瓦礫は、ホームに停車中のアンコーナ発キアッソ行きの旅客列車にも直撃した。85人が死亡し、負傷者は200人を越えた。
 この「ボローニャ駅爆破テロ事件」は、イタリア国内でテロや暗殺が多発した、1960年代から80年代の通称「鉛の時代」に起きた大事件の一つであり、極右(ファシスト)テロ組織が実行犯とされた。ただ、捜査や裁判が二転三転し、政府機関の関与も指摘されるなど、真相は藪の中という印象も強い。
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 再建された現在の駅舎でも、2等待合室は爆破時と同じ場所にある。壁面には、「ファシストのテロの犠牲者」全員の氏名と当時の年齢が刻まれている。爆心地はそのまま残されていて、凹んだ床が柵で簡単に囲ってある。壁の歪んだ大きな窓も、破壊された旧駅舎の一部を保存したものだ。
 この事件はイタリア語で、"Strage di Bologna"と呼称される。「ボローニャの虐殺」である。死者のうち一人は日本人の旅行者で、犠牲者リストの左下に「SEKIGUCHI  IWAO 20」との記載がある。 


 混雑する2等待合室には、30年も昔の事件の碑を気にする人などいない。だが私がカメラを構えると、何人かから目線を投げられた。同道の友人からは「暗くマイナーなものをよく見つけるな」と呆れられた。